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北海道におけるヘンプ2万ヘクタールの経済効果 


北海道ヘンプ協会は、昨年11月に開催されたアグリビジネス創出フェア2021(農林水産省主催)において、北海道でヘンプ(産業用大麻)を2万ヘクタール栽培した場合の経済効果を試算し、公表しました。

これによると、茎と種子しか販売できない現行法下でも約1兆円、もし、大麻取締法の改正によって、葉と花からのCBDなどの有効成分の抽出・販売が合法となれば、さらに8千億円が上乗せされ、トータル約1.8兆円もの経済効果が期待できそうです。

衣食住、特に健康分野に関係する持続可能性の高い多様な製品の原料となりうるヘンプは、SDGsに適う有用な農作物として世界的に注目されております。

当協会が試算したヘンプの経済効果が、我が国における新たな産業としてのヘンプ産業の振興に関する議論のきっかけとなれば幸いです。




試算の根拠
本試算は、すべて小売価格ベースの経済効果です。

住宅用断熱材:1棟当たりの繊維1500s×1400円/kg×1万棟
自動車内装材:1台当たりの繊維20s使用した内装材100,000円×25万台
ヘンプ100%紙袋:1袋当たり0.1kgのヘンプパルプ使用 100円/枚×紙袋5000万袋
ヘンプ100%ジーンズ:1着当たり0.3sのヘンプ紙糸使用、10000円/着×1300万着
馬用敷料:1頭当たり麻チップを年1.5トン使用、38000円/年×42000頭
ヘンプハウス壁材:1棟当たり麻チップを7トン使用 麻壁材公費5,550,000円×1万棟
麻炭:3800円/kg×105トン
殻付き種子:500円/kg×1000トン
ヘンプナッツ:6000円/kg×2500トン
ヘンプシードオイル:10000円/kg×1800トン
ヘンププロテイン:6000円/kg×7200トン
CBDオイル 10000円(1本30ml、1000rCBD配合)×6000万本
CBDタバコ:1本当たりヘンプ葉1gを使用、1箱20本入り、600円/箱×3億箱
緑肥:ヘンプ後作小麦の収量が10%増加した場合の増収効果を想定、小麦1ha当たり収量を5トンとして計算 増収分500s/ha×小麦買い入れ価格100円/kg×2万ha


引用:北海道ヘンプ協会アグリビジネス創出フェア2021出展報告書


 産業用ヘンプに関する収益性試算の再計算


北海道庁は、農政部を事務局とした有識者会議「北海道産業用大麻可能性検討会」(座長:松井和博 北海道大学名誉教授)を2013年8月(H25.8)に設置し、6年間に計11回の検討会を開催して検討した結果を取りまとめ、2019年3月(H31.3)に「北海道における産業用ヘンプの作物としての可能性検証報告書」(以下報告書)を公表し、現在も道庁ホームページで公開しています。

北海道産業用大麻可能性検討会 - 農政部生産振興局農産振興課

報告書では、産業用大麻(ヘンプ)に関する収益性を12のシナリオで試算していましたが、いずれの場合も、農家所得はマイナスとなりました。ただし、当時の試算の前提条件が大きく変わってきたため、現在、この試算に基づいて、北海道におけるヘンプ栽培の経済性を論ずることは適当ではないと思われます。

そこで、北海道ヘンプ協会は、下記の1~7の新たな前提にたって再計算したところ、ヘンプの収益性はいずれのケースでも著しく向上し、農家所得は大幅な黒字となることが明らかとなりました。

1.国内外のアサを巡る状況が大きく変化し、「全ての大麻栽培原則禁止」の前提条件が成立しない
2.海外のアサ農場には全く存在しない盗難防止措置代が費用計上されている
3.1次加工事業者の加工費と採算性を全く検討していない
4.国産ニーズのある製品(CBD、ヘンプ食品、住宅用断熱材、敷料など)を検討していない
5.海外のアサ農場ではほとんど使用しない除草剤及び散布費用が計上されている
6.THC検査のサンプル数が多く、分析費用が高額すぎる
7.低THCの品種であれば栽培実態点検作業代を計上する必要性はない


【再試算の結論】 
報告書の試算に比べて、再試算では、農家所得が大幅な黒字となった。
報告書では約23万円〜68万円/haの赤字 
→ 再試算では、約31万円〜141万円/haの黒字

詳しくは下記の表をご参照ください。


鮮明なものを見る場合はこちらのPDFをご覧ください

 北海道の畑作の輪作体系を守るために



輪作(りんさく)とは、連作による障害を防ぐため、同じ畑で、異なる作物を一定の順番で定期的に循環させて栽培することです。

北海道における輪作の一例として、てん菜(ビート)→馬鈴薯→秋播き小麦→豆類もしくはスイートコーンといった4年輪作体系を下図に示しました。この例では、ヘンプは、てん菜の代替作物として、または、秋播き小麦の前作作物としての導入が可能です。



北海道ヘンプ協会では、ヘンプの普及予定面積を 2 万 ha としていますが、実は、この面積は、てん菜の栽培面積約 6 万 ha の1/3に相当します。

当協会では、砂糖の消費減や貿易自由化による輸入砂糖の増大などによる国内砂糖生産の縮小=てん菜の栽培面積の減少を、同じ工芸作物であるヘンプの導入によってカバーし、北海道の畑作の輪作体系を守ろうという提案を以前から行っていますが、恐れていたてん菜の減反がとうとう現実化しようとしています。


北海道新聞 2022年 5 月 15 日 1 面 テンサイ生産枠 2 割減へ議論


同日の記事5面には、「テンサイ生産減検討 道内産地影響を不安視 輪作組み合わせ「崩れる」」と紹介されています。
また、北海道新聞(帯広・十勝)2021 年 8 月 31 日では、 「北海道糖業 本別製糖所 2023 年3 月廃止 農家不安「ビート作れない」 地元経済への影響懸念」とも紹介されています。


●てん菜(ビート)とヘンプ(産業用大麻)の共通点

1)バイオマスの生産能力が極めて高い工芸作物であり、加工工場を必要とすること

2)加工の工程で副残物が利用できること

3)ヨーロッパの種子(品種)、栽培技術、収穫機械、加工設備を導入・利用できること。


前述のように、てん菜もヘンプも同じ工芸作物(Indusrial Crop)です。工芸作物というのは、簡単に言えば工業原料になる作物のことで、大規模な加工工場が必要です。

農家が栽培して収穫したてん菜の根部(サトウダイコン)は、製糖工場に運ばれ、砂糖が抽出されます。農家が自分で砂糖を製造することは不可能ではありませんが、効率が悪く現実的ではありません。

てん菜(農畜産業振興機構

てん菜とヘンプは同じ工芸作物と言いましたが、実は、驚くほど共通点があります。前述のように、加工工場が必要であること、工場における加工の過程で副産物が出ること、これらからも多様な製品ができること、成長が旺盛でバイオマスの生産能力が高いこと、したがってエネルギー作物としての可能性もあることなどです。

また、現在、ビートの種子のほとんどは製糖会社がそれぞれ提携するヨーロッパの種子会社から輸入しています。ヘンプもフランスなどヨーロッパから種子の輸入を予定していること、品種の他に、栽培技術、収獲機械、加工設備などをヨーロッパに求めることができることなど、ヨーロッパとの関係の深い日本の製糖会社にとって、ヘンプの導入は他の産業会社に比べて極めて有利と言えます。

広い工場敷地はヘンプの加工工場の建設に利用できますし、製糖工場の技術者と労働者はそのままヘンプ工場で働くことが可能です。製糖会社の研究者、栽培指導者も、研究・普及対象をてん菜からヘンプに替えることは不可能ではないと思います。むしろ、てん菜から得た様々な知見や経験が新たなヘンプにも応用が可能かも知れません。

もちろん、このようなてん菜からヘンプへのシフトは一朝一夕にできるものではありませんので、製糖会社は体力のある今のうちにヘンプへのシフトを決断し、計画的に人材の育成にあたる必要があります。

一方、農家の側にもメリットがあります。まず、ヘンプの種子は、製糖各社がまとめて輸入し、契約農家に供給してくれますし、栽培法については同じく製糖会社の指導員が栽培法を指導してくれます。収穫については、もし自分でできなければ、ヨーロッパから輸入した最先端の収穫機をもつ収穫代行者に依頼することもできます。地上部収穫物は、地元の運輸業者がヘンプの製糖会社の敷地にある一次加工工場に運んでくれます。

このように、農家はてん菜に替わる新たな作物であるヘンプの種子と栽培ノウハウを製糖会社を通じて入手し、生産物をそっくり製糖会社に買ってもらいますので、自分で種子や売り先を探す必要はありません。経験豊かな農家にとって、手間のかからないヘンプ栽培はそれほど難しいことではないと思います。

もちろん使用するヘンプの種類は、いわゆるマリファナ成分のTHC(テトラヒドロカンナビノール)を全く含まない産業用ヘンプですので、厚生労働省が懸念する保健衛生上の危害を及ぼす恐れもありません。

なお、種子は毎年ヨーロッパから保証付きの種子を購入し、自家採種は行いません。これは、北海道に多い自生大麻(野生大麻)の花粉の交雑による品種の劣化を防ぐためです。
現実に北海道でこうしたヘンプの大規模栽培を実現するためには、様々な課題を解決していく必要があります。

その中で、一番大事なことは、ヘンプも大麻の一種であることから、地元の理解が極めて重要なことです。THCの全く含まれないヘンプの安全性を農業者はもちろん地域住民に理解してもらう必要があります。

いずれにしても、ヨーロッパをはじめ海外では通常の農作物に準じて栽培され、それらを原料とするヘンプ産業が発展中ですので、製糖会社をはじめ、農協などの生産者団体、行政はこうした海外情勢をよく研究し、ヘンプの導入について真剣に検討していただきたいものです。