北海道の未来資源 ヘンプで六次産業化を目指す 道内のヘンプ、Hemp、麻、大麻草の情報ネットワーク
HIHA (Hokkaido Industrial Hemp Association) |
播種用のアサ種子の安定供給を目指して
農作物でもっと重要なのは、その土地に適した品種を栽培することと、その品種が栽培したい人にとって入手可能なことです。北海道では、この2つとも十分な環境が整っていません。
当協会では、本州のアサ品種である「とちぎしろ」を取り寄せて、2014年〜15年に北海道知事から大麻研究者免許の交付を受けて試験栽培を行いましたが、開花時期が遅くて種子の実りが悪く、北海道の寒い気候には適していないことが明らかとなりました。
14年10月28日
種子採取前に雪が降り、種子収量は、10a当たり約2.5sと栃木県の20分の1、千粒重は、
栃木県の25gの6割の重さ、発芽率も6割しかなかった。
そこで、夏季の気候条件が北海道と類似したフランスで育成されたマリファナ成分THCゼロ%のヘンプ(サンティカ品種)の種子を輸入し、北海道において試験栽培を行って生育調査、成分調査、用途開発等を計画しています。
導入予定の品種の特徴について
@安全性の向上:
マリファナ効果をもつTHC(テトラヒドロカンナビノール)がゼロ%であるため、薬物乱用の危険性がない。また、公的なEU農業種子リスト及びOECD品種リストに登録された来歴がはっきりした品種及び種子会社からの導入となる。
A生産性の向上:
我が国の品種は、雌雄異株のため、茎(繊維)と種子の同時期収穫はできない。そのため、繊維用と種子用の畑を別々にしなければならない。しかし、導入する品種は、北海道の気候に対応でき、雌雄同株のため、茎(繊維)と種子が同時期に収穫ができ、同じ畑を利用できるため、単純に2倍の生産性がある。
B新用途の開発に貢献:
現在、ヘンプ商品はほとんどが輸入品で占められている。導入する品種によって、自然・健康志向、国産志向にニーズに対応した衣料、食品、化粧品、建材、炭、敷料、漢方などの分野に安心・安全な道産品を提供できる。
また、導入予定の品種を全世界に販売するフランスの種子会社Hemp-it(1932年設立)では、播種用のアサ種子を1560ヘクタール(2016年)生産し、約1500トンのアサ種子を次の48か国に輸出実績があります。
EU:28か国 +下記の20か国 =48か国
ニュージーランド、アメリカ合衆国、カナダ、マラウイ、マルコ、南アフリカ、オーストラリア、ボリビア、ウルグアイ、コスタリカ、ハイチ、パキスタン、ロシア、ケニア、スイス、セルビア、レバノン、キプロス、マダガスカル、タイ
国内における播種用アサ種子の確保・供給はどうするの? 解説Q&A
Q1 現行の大麻取締法では、アサ種子は合法ですか、違法ですか?
A1 現行の大麻取締法第1条では、花と葉が違法、種子と茎が合法という植物の部位による規制(部位規制)となっています。マリファナの主成分であるTHCは花と葉に多く、種子や茎にはほとんど含まれていません。そのため、アサ種子(麻の実、ヘンプシード)は、食用、鳥の餌、漢方生薬のマシニン(麻子仁)として流通しています。発芽能力のある種子を栽培に必要な器具などとともに無許可で所持していれば、栽培予備罪(大麻取締法第24条の4)に問われます。
Q2 国内で流通しているアサ種子は、タネとして使えますか?
A2 食用として流通しているアサ種子のほとんどは輸入品です。海外からアサ種子を輸入する場合、外国為替及び外国貿易法の輸入貿易管理令に基づく輸入公表により、すべて加熱等による不発芽処理が必要です。したがって、これらのアサ種子は発芽しないのでタネとして使うことはできません。
Q3 国内では、播種用のアサ種子をどうやって入手するのですか?
A3 既存のアサ栽培農家を除き、播種用のアサ種子を新規に入手することははほとんど不可能です。栃木県では、県が育成した低THC品種「とちぎしろ」の種子を栽培農家に提供していますが、県外への種子の提供や持ち出しを禁止しています。また、一部の県では、県外の大麻栽培者または栽培者免許申請者に対して、種子や種子の分譲確約書の提供を認めていますが、ほとんどの県では種子の分譲が制限されています。
Q4 アサ種子の国際的な流通はどうなっていますか?
A4 食用・飼料用の種子と播種用の種子は、別々のHSコード(注)を割り当てられており、それによって、輸出入が行われています。日本には、そもそも播種用のアサ種子のHSコードがありません。
表1 アサ種子のHSコード
国・地域 | 食用・飼料用のアサ種子 | 播種用のアサ種子 |
EU(27か国) | Hempseeds other than for sowing 1207.99.91 |
Hemp seeds for planting/sowing 1207.99.20 |
英国 | Hemp seeds 1207.99.1010 |
Hemp seeds ‐For sowing 1207.99.1500 |
カナダ | Hemp seed -Other 1207.99.00.19 |
Hemp seed -For sowing 1207.99.00.11 |
アメリカ | Hemp seeds 1207.99.0320 |
Hemp seed for sowing 1207.99.0340 |
日本 | 大麻の実 1207.99.010 |
コード指定なし |
HSコード:国際貿易商品の名称及び分類を世界的に統一する目的のために作られたコード番号であり、貨物を輸出入する際の品目分類に用いる輸出入統計品目番号のこと
大麻取締法の改正時に、輸入公表を改正した上で、我が国も諸外国と同様に播種用のアサ種子のHSコード番号を設定すれば、海外の優れた品種の輸入が可能となります。
Q5 大麻の規制が、植物の部位による規制からTHCによる成分規制に移行すれば、品種はどうなりますか?
A5 植物の新品種の保護に関する国際条約である「UPOV条約」のガイドラインでは、大麻品種はサティバ種(ヘンプ)とインディカ種(マリファナ)の二つに区別されています。米国では、THC濃度0.3%以下の大麻品種をヘンプ、THC濃度0.3%を超える大麻品種をマリファナと法的に定義しています。日本においてもTHC基準値以下の大麻品種の種子をアサ種子として播種用のHSコードを定めれば、他の農作物の種子と同様に海外の優れた品種を輸入して国内で栽培できるようになります。
Q6 これからのアサ種子の生産・流通管理はどうあるべきですか?
A6 国内外の事例を踏まえると、アサ種子の生産・流通管理方式は、登録品種方式と農場検査方式の2つが想定されます。詳しくは、下記の北海道ヘンプ協会案を参考にしてください。
(北海道ヘンプ協会案)
管理方式 | THC管理の 主体 |
品種の種類 | 品種登録 | THC検査の 実施時期 |
農家による 種子増殖 と分譲 |
事例 |
登録品種 方式(A) |
国内種苗業者 研究機関等 |
国内育成種 | あり (国内) |
育成・増殖時 | 否 | 栃木県 |
登録品種 方式(B) |
輸入業者、 海外種苗業者 研究機関等 |
海外品種 | あり (海外/国内) |
育成・増殖時 (海外) |
否 | カナダ |
農場検査 方式(C) |
国内検査 機関 |
自家採種の 在来種等 |
なし | 生産物の 収穫前 |
可 | 米国 各州 |
登録品種方式(A)は、国内の種苗会社又は農業試験場等が、登録品種又はそれに準じた品種の種子を増殖しアサ農家に配布します。そのアサ種子を使ったアサ農家の生産物は、サンプリング検査(THC検査)を必要としません。
登録品種方式(B)は、海外の登録品種を種苗会社から購入して、アサ農家が栽培した場合、その品種の生産物はサンプリング検査を必要としません。
農場検査方式(C)は、登録品種ではないアサ種子を栽培した場合、サンプリング検査を収穫前に実施し、THC制限値以下であることが確認された生産物のみが市場流通します。
なお、登録品種方式(A,B)の場合は、農家による自家採種と他の農家への分譲は禁止とし、毎年、指定業者等からの購入とします。農場検査方式(C)の場合は、自家採種とその種子の分譲は一定の条件のもとで可能とします。
Q7 登録品種とは何ですか?
A7 各国の種苗関係の法律に基づいて登録された品種のことです。
日本の栃木県で栽培されている「とちぎしろ」は、種苗法による登録品種でしたが、1983年に登録された後、25年の育成者権存続期間が切れましたので、今現在は登録されていない一般品種です。
欧州ではEU共通農業植物品種カタログによって、アサは、2022年4月末で79品種が登録されています。カナダでは、2022年に74品種が登録されています。
米国は一部の州で、推奨品種として指定されていますが、全米規模では登録品種について制度化されていません。品種の起源が不確かなことを想定して、生産物の収穫前にTHC検査が義務付けられています。
Q8 海外の農場におけるTHC検査はどのようにしていますか?
A8 例えば、米国では、次のように検査方法を定めています。
@ アサ農家は、THC検査のサンプリング代行者によるサンプル採取後、30日以内に収穫しなければなりません。
A サンプリングは、頂部から5〜8インチ(12.7〜20.32p)で切断しなければなりません。
B サンプル採取数は、ガイドラインで定めています。同じ品種であれば、1エーカー(0.4ha)につき1サンプル、10エーカー(4.0ha)につき10サンプル、100エーカー(40ha)につき76サンプルと細かく指定されています。
Q9 圃場検査の結果、THCが制限値以上になった場合はどうなりますか?
A9 米国では、「許容可能なヘンプのTHC濃度」を1.0%と定め、これを超えた過失を3回すると、5年間の免許はく奪となります。
1.0%を超えたものは、畑で「処分」となります。ただし、再検査でOKなものは、「修復」の措置となり、商業流通可能となります。例えば、花や葉は、販売できなくても、種子や茎は販売可能となります。
Q10 米国のTHC検査について具体的に教えてくれませんか?
A10 下記の米国農務省農業マーケティングサービス局の文書を参照してください。
北海道ヘンプ協会ですべて翻訳し、一部はホームページで公開しています。和訳版の提供を希望される方は、下記の事務局までお問合せください。
hokkaido.hemp.net@gmail.com
・ヘンプ生産プログラム(最終規則)2021年3月22日発効(96頁)
米国ヘンプ農業法最終規則(翻訳版 全96頁)
米国ヘンプ農業法最終規則 解説Q&A
・ヘンプのサンプリングガイドライン 2019年1月15日
・ヘンプの栽培施設の修復および処分ガイドライン 2021年1月15日
・検査機関の検査ガイドライン 2021年1月15日
・AOAC International標準メソッド性能要件(SMPR 2019.003)
ヘンプ(低THC大麻草品種)の植物材料中のカンナビノイド定量化のための標準試験法の性能要件
・米国農務省播種用ヘンプ種子の輸入 2019年4月18日通知
現状打開に向けた取り組み
このような現状に鑑み、本協会とは共同研究パートナーであるフランス種子会社Hemp-it(旧名:FNPC)の提案により、日仏政府間で「繊維に関する協力覚書(MOC)更新版」2017年4月の行動計画の中に「両国のHEMP
legislationの基準や法制度などの規制、基準、規格の協調について議論を行う」と明記されました。
また、北海道議会では、2017年12月の道議会本会議にて地方自治法第99条に基づき「産業用大麻の産業化に向けた必要な環境整備をもとめる意見書」を採択し、国会及び関係行政庁に提出しています。
本協会は、現状打開のため関係当局との協議を行っているところです。
ご参考
日仏が繊維分野に関する新協力覚書を締結
産業用大麻の産業化に向けた必要な環境整備をもとめる意見書