HOME > コンテンツページ

野生大麻と遺伝資源




北海道では、1965年(昭和40年)に野生大麻の調査を実施してから毎年、各地で野生大麻抜き取り活動を行っています。1983年に抜き取った数850万本をピークに徐々に減少し、最近では100万本前後となっています。



北海道立衛生研究所の研究レポート 1969〜1973年

道の衛生研究所では野生大麻の調査研究を1969年から1973年にかけて実施しています。そのときにまとめらたレポートは下記のようなものです。


(1)橘高毅ら他『道産大麻の研究(第1報)道産野生大麻の分布と麻酔性成分について』、北海道立衛生研究所報 第19集、1969

概要:道内の野生大麻は、広く各地に分布しており、札幌を中心とした道央地区に密生。野生大麻のTHC含有量は、雌葉:0.2〜1.6%、雄葉:0.1〜1.1%、種子:0〜0.5%、地域差による成分差や雄雌間の異差は認められなかった。


(2)本間正一ら他『道産大麻の研究(第2報)道産野生大麻のCBD,THC,CBN含有量について』北海道立衛生研究所報第21集、1971 

概要:道内各地の野生大麻の雌株でCBD:0.04〜0.49%、THC0.56〜5.73%、CBN0.05〜0.48%で地域差、成分量の差、雄雌の差は認められなかった。大麻草の部位別含有量は、3成分とも成長葉、包葉、小包の順に多く、茎にはほとんど含有は認められなかった。


(3)本間正一ら他『道産大麻の研究(第3報)成育過程における大麻成分の推移について』
北海道立衛生研究所報第21集、1971 

概要:大麻成分は、生育するにしたがって増加し、枯れる時期になって低下する。大麻成分は、茎、分枝、葉の順に多くなり、葉のうちでも上部の葉である成長葉、包葉、小包の順に多くなる。野性大麻と栽培種の比較も実施し、最も高い値で、野生大麻(札幌)雌株9月の葉THC:3.96%、当時の栃木県栽培品種の押原種では、雌株10月の小包THC:2.24%を示した。

(4)橘高毅ら他『道産大麻の研究(第4報)野生大麻の成育土壌と微量要素について』
北海道立衛生研究所報第21集、1971 

概要:道内各地の野生大麻の土壌分析から土壌学的な著明な特殊性は認められなかった。大麻の微量要素Feが最大で420〜2750ppm(平均979ppm)、Mn:33〜500ppm(平均148ppm)、Zn:40 〜135ppm(平均77ppm)、Cu:10〜66.5ppm(平均29ppm)のとなった。他の生薬と比較して、Feが極めて多く、逆にZnはかなり低い量を示した。


(5)金島弘恭ら他『道産大麻の研究(第5報)生育環境と大麻成分』
北海道立衛生絵研究所報第23集、1973

概要:栃木県の栽培品種の押原種と野生大麻種を伊達町と女満別町から採取した土壌で栽培を実施。土壌や生育環境に大麻成分は影響されず、むしろ産地別種による固有のパターンを示す傾向が見られた。押原種は平均THC:0.65%、野生大麻は平均THC:1.27%であった。


詳しくは、道立衛生研究所報目次からPDFファイルで見ることができます。
こちらをクリック!

CBDA種と遺伝資源の重要性

 遺伝資源(種子)は、近代農業の発達により、病害虫に強く、味がよく、収量の高い特定の品種が普及したことによって、昔からあった在来種が少なくなり、種子の多様性が失われてきています。1993年に生物多様性保全条約が制定され、遺伝資源は、各国で保全すべき対象となっています。


 大麻草についても、ヘンプ(産業用大麻)と呼ばれているCBDA種は、ヨーロッパ種が中心であり、研究によるとたったの3つの品種系統に限定され、今後の育種にとって大きな懸念事項となっているのが現状です。


 また、本州の栃木県で1983年に開発された産業用大麻品種「とちぎしろ」は、当時の九州大学正山教授によって佐賀県で偶然発見されたマリファナの主成分THCが0%のCBDA種と栃木県在来種の栃木試1号を集団選抜法によって育成したものです。新しい品種をつくる「育種」という世界では、野生大麻はたいへん貴重な存在なのです。


 道内の野生大麻は、明治時代に栃木県をはじめとした本州各地から導入されたことがわかっていますが、戦後60年以上、誰の手も借りずに自生していることから、生命力が高く、大きな可能性を秘めた貴重な遺伝資源と考えることができます。


 最近では、日本の大塚製薬の共同研究パートナーとなっているイギリスのGW製薬がCBDA種の薬理作用の研究を進めたことにより、従来からの繊維用や食用だけでなく、薬用にも応用できることが明らかになりつつあります(下図参照)。


道内において、野生大麻をただ抜き取り、焼却・埋没処理するだけでなく、遺伝資源としての調査研究をし、産業用大麻の普及と推進に貢献することが必要でしょう。
 




注)THC=テトラヒドロカンナビノール 薬用品種の主成分
  CBD=カンナビジオール 繊維用・食用品種の主成分
  CBDA=カンナビジオール酸 大麻草の植物体内でのCBDの形態
      熱をかけたりすると脱炭酸してCBDとなる